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今回はこちらの時計を例に、クラシックな腕時計のテンプに取り付けられるチラネジについて紹介してみたいと思います。
H.MOSER & Cie. モーザー スモールセコンド シルバー 2327-0400
チラネジとは、製作精度の悪かった時代に『テンプのバランスを取るため』
或いは『【バイメタル切りテンプ】の精度調整のため』に発明されました。
先に、「バイメタル切りテンプ」について簡単にお話しさせていただきます。
時計のムーブメントは金属で出来ているため、気温が高い時は
ヒゲゼンマイが柔らかくなり、テンワが膨張いたします。
対し、気温が低い時は、ヒゲゼンマイが硬くなり、テンワは収縮します。
わずかな変化ではありますが、この現象によって時計の精度に狂いが生じてしまうのです。
その影響をできるだけ減らそうと開発されたのが、膨張率の違う金属を貼り合わせ、
輪の一部を切り落とした「バイメタル切りテンプ」でした。
バイメタル切りテンプは製造・調整が難しく、高度な技術と多くのコストが要求されるため、
弾性変化や体積変化が小さい合金が開発された現代においては不要となり、
全くと言っていいほど見ることはなくなりました。
バイメタル切りテンプがなくなった現代でその面影を残しているのがチラネジです。
バイメタル切りテンプの精度調整という役割はなくなり、テンプの製作精度も向上した現代で、チラネジは装飾用のものとなっています。
AUDEMARS PIGUET オーデマ・ピゲ ロイヤルオーク トゥールビヨン エクストラシン 26522TI.OO.1220TI.01 【 ブティック限定 30本】
本来必要のない装飾なので搭載されている時計は少ないですが、
ランゲ&ゾーネのような伝統を大切にするブランドや、トゥールビヨンといった
審美性が重要になる時計では現在でも見かけることができます。
画像のチラネジのうち、等間隔で4ヶ所、他のチラネジと違ってネジ足がやや長いものがあるのをご覧いただけますでしょうか。
これはチラネジの中でも装飾用ではなく、精度調整に使われるものであり
「ミーンタイムスクリュー」と呼ばれます。
「ミーンタイムスクリュー」は通常のチラネジと違って可動させることができ、テンプのバランスをわずかに変化させることで
より細やかな歩度調整が可能になります。
この調整方式は「フリースプラング」と呼ばれ、ヒゲゼンマイの長さを調節する従来の
「緩急針方式」に比べ、高い精度が出しやすく、その高精度を維持しやすいというメリットがあります
(フリースプラングにおけるテンプのバランス調整には、ミーンタイムスクリュー以外にもマイクロステラナットやジャイロマックステンプなどが使われます)。
フリースプラングは以前は技術力のあるブランドしか製造できませんでしたが、
製作精度が向上した現在では採用するブランドも増えております。
チラネジや精度調整の方式はムーブメントがお好きな方にとってはとても気になる要素だと思いますので、
購入予定の時計について詳しく調べていただけると面白いかと思います。