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腕時計を選ぶ際に、好みのブランドや歴史的背景、モデルのデザインや使い勝手の良さなど、さまざまな判断材料があるかと思います。
そして、腕時計を知れば知るほど、マニュファクチュールブランドの時計に拘る方もいるのではないでしょうか。
マニュファクチュールとは、フランス語の”Manufacture d’horlogerie”から来ており、「工場」を意味します。
時計業界に当てはめると、「自社一貫製造する時計メーカー」を指します。
「腕時計の製造に関して、開発から製造までのすべての工程を自社で賄う」と言うことになり、外装パーツのケースやブレスレットにはじまり、内部のムーブメントまですべてのパーツを自社で製造することになります。
更に、厳密に言えばムーブメント内部のネジ1本に至るまで自社製造するほど徹底的にこだわるメーカーもあります。
ですが、日本はもちろん時計本国のスイスにおいても「マニュファクチュールブランド」としての明確な定義はありません。
一般的には「外装パーツと内装ムーブメントを自社で開発、製造している」ブランドが当てはまるとされています。
JAEGER LECOULTRE ジャガー・ルクルト マスター ウルトラスリム ジュビリー Q1296520【世界限定880本】
マニュファクチュールブランドとして真っ先に名前が挙がるジャガー・ルクルト。
こちらの時計の厚さはわずか4.05mmと、発売当時の手巻き腕時計として世界最薄の記録を持っていました。
1800年代から続く、マニュファクチュールブランドとしての技術の研鑽の結晶といえるでしょう。
機械式時計にはシンプルな3針の時計であっても少なくとも約100個のパーツが使用されています。
更に、「クロノグラフ」「ムーンフェイズ」など、機能が増えていけば自然と必要なパーツの数も増えていきます。
また、同じ「クロノグラフを搭載した自動巻きの時計」であっても、ブランドによって構成されるパーツの数は異なります。
例えば、ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズのクロノグラフモデルだと、メーカーが公表している部品数は263個です。
VACHERON CONSTANTIN ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ クロノグラフ 5500V/110A-B148 ブルー
9時位置の秒針に2つの積算計、合わせて3つのインダイヤルが逆三角形に配置された、クロノグラフモデルとしては定番のデザインです。
一方で、パテック・フィリップ ノーチラスのクロノグラフモデルは、部品数は308個です。
PATEK PHILIPPEパテック・フィリップ ノーチラス クロノグラフ 5980/1A-014
6時位置に、30分積算計と12時間積算計が同軸上に配置されているデザインが珍しい1本です。
もちろん、それぞれのモデルが発表された年代が違えば各メーカーの技術力も異なるかと思いますし、同じクロノグラフモデルであっても、ダイヤルのデザインやクロノグラフ積算計の配置位置によって必要パーツの増減はあるかと思います。
そして、それぞれの時計にいくつのパーツを使用しているのか、公開しているブランドとそうでないブランドがあります。
例えば、パテック・フィリップはメーカーサイト上で各モデルの商品説明欄に「部品総数:〇〇個」と記載しています。
オーデマ・ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンの三大時計ブランドや、IWC、ジャガールクルト、ゼニス、なども同様に記載があります。
お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、上記で挙げたブランドは一般的な解釈ではマニュファクチュールブランドに該当します。
なお、ロレックスもマニュファクチュールブランドに数えられますが、部品数の公開は確認できませんでした。
様々なサイトを見ていくと、独自に部品の数を調べている方も多くいるようです。
ちなみに、ロレックスは2000年以降完全自社製に切り替わっており、パーツの中で最も製造が難しいとされるヒゲゼンマイですら自社製造しています。
なお、2000年まで製造されたRef.16520 のデイトナは、ゼニス社のクロノグラフムーブメント「エル・プリメロ」をベースにして作られた「Cal.4030」を搭載しており、後世に残る「傑作品」として今なお高い人気を誇っています。
マニュファクチュールブランドの最大の利点は、「作りたいものを作れる」という点になります。
前述したノーチラス クロノグラフ 5980/1A-014のように、「複数の積算計を重ねたデザインにしたい」といった場合、当然ですが既製のムーブメントでは叶えることができません。
リューズの位置を3時の位置からずらした時計や、極端なケースサイズの時計を作ろうとした際も同様です。
「その時計を作るため」に、専用のムーブメントを自分たちで開発する必要が出てきます。
当然、開発コストはかかりますが、「やりたいことができる」というのがマニュファクチュールブランドだからできることになります。
マニュファクチュールブランドの技術力に注目が集まりますが、そもそも腕時計の歴史は分業体制から始まっています。
時計製造の技術が伝わった17世紀頃のスイスでは、時計の製造は冬場に農業ができない間の副業として行われていたと言われています。
時計を一つ作り上げるのにすべての工程を1社のみで行うのは不可能だったため、必然的に複数社に分かれて時計を製造していくことになりました。
この分業制で時計を製造するという現在まで続く伝統的な製造スタイルを、マニュファクチュールの対義語として「エタブリスール」と呼びます。
外装やデザインに関してを自社で行い、ムーブメントなどの部品を他社に外注しています。
エボーシュと呼ばれる半完成のムーブメントや一部のパーツを仕入れ、自分たちで完成品へと組み上げていきます。
エタブリスールを語る上で外せないのが、スイスのムーブメントメーカー「ETA社」です。
オメガやブレゲと同じスウォッチグループに属するETA社は、最盛期の1990年代には「スイスの時計の約90%」にムーブメントが使用されていたほど圧倒的なシェアを誇っていました。
現在も、スウォッチグループ内はもちろん、グループ外のブランドに対してもムーブメントの提供を行っています。
汎用ムーブメントを搭載している時計のメリットとして、購入時を含めてのトータルコストがあります。
量産するため、製造コストを抑えられているため、製品化された際の販売価格にも反映されます。
さらに現実的な問題として、5~10年おきにやってくるオーバーホールなどのメンテナンス費用を抑えることができます。
そもそも、汎用ムーブメントとして長い歴史を重ねてきた実績があるため、品質が安定していて壊れにくいという強みもあります。
長く使用すればするほど、汎用ムーブメントを積んでいることのメリットを実感できると思います。
現在、段階的にスウォッチグループ以外へのETA社ムーブメントの供給を減らしていく、いわゆる「ETA社問題」が進行しています。
それをきっかけにして、各社がムーブメント開発に力を入れることになり、マニュファクチュールブランドが増えてきています。
もちろんETA社以外のムーブメントメーカーも技術開発に注力し、価格競争も生まれてきています。
ちなみに、すべてのブランドがマニュファクチュールかエタブリスールかに二分できるわけではありません。
ウブロやタグホイヤーなど一部のブランドは、同じブランドの中でも「一部のモデルには自社製ムーブメントを搭載し、一部のモデルには汎用ムーブメントを搭載している」といった対応を取っています。
このブランドは全てがマニュファクチュールと判断するのではなく、ブランドの中でもモデル毎に見ていく必要があるかと思います。
また、マニュファクチュールブランドにおいても、汎用ムーブメントに改良を加えてオリジナリティを与えることで、マニュファクチュールブランドと謳うこともあります。
繰り返しにはなりますが、マニュファクチュールブランドの明確な定義はありません。
あくまでも、私たちの選び方や受け取り方の問題なのではないでしょうか。
▼本日ご紹介した時計はこちら
JAEGER LECOULTRE ジャガー・ルクルト マスター ウルトラスリム ジュビリー Q1296520【世界限定880本】
VACHERON CONSTANTIN ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ クロノグラフ 5500V/110A-B148 ブルー
PATEK PHILIPPEパテック・フィリップ ノーチラス クロノグラフ 5980/1A-014
また、現在WEBサイトでは『自社製ムーブメント搭載モデル特集』を開催しています。
ぜひご覧ください。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
それでは、素敵な時計ライフをお過ごしください。