こんにちは近藤です。先日、生まれて初めて歌舞伎を観に行ってきました。
新春歌舞伎という事で、若手の配役が中心となっていてチケット代も手頃だったのと、以前より興味があったこと、加えて妻が奢ってくれるというのが決定打となり重い腰を上げ出掛けてきました。
今回の観ることが出来た演目は、毛谷村と歌舞伎十八番である勧進帳。配役は片岡愛之助、そしてあの市川海老蔵さんでした。
海老蔵さんですが、プライベートではなんだかんだありましたが、やはり芸は一流だと素人目にも判るほどのダイナミックな演技でした。
途中の口上では市川家に伝わる『睨み』を披露。この睨み、厄払いの効能があるとで、今年本厄を迎える私と致しましては、タイミングよく厄払いにもなり有難い限りでした。
歌舞伎のルーツは江戸幕府開府と同年の慶長八年(西暦1603年)に出雲阿国が京都・鴨川の四条河原で演じた『かぶき踊り』が始まりとされ、その後、遊女などによる女歌舞伎、若衆歌舞伎などが流行しますが、風紀の乱れを嫌った幕府により、男性のみが演じる野郎歌舞伎のみを許可制としたとのこと。歌舞伎が男性のみで演じられる所以はここにあるようです。その後、平和が長く続いた江戸の町民文化、風俗とともに発展して行ったのでしょう。
上記の歌舞伎に関する歴史薀蓄は、購入したパンフレットに記載されていた内容からの抜粋ですが、観劇を終えてパンフレットを読みながら歌舞伎の創世記である江戸時代の時代背景を考えていると私のイマジネーションは、同じ頃の中世ヨーロッパまで時間旅行に旅立つことになりました。
唐突な展開ですが、皆さんは何故スイスの時計産業がここまで特化して発達したかの経緯をご存じでしょうか?
遡ること16世紀フランスのカルビン派による宗教改革に端を発する宗教戦争(ユグノー戦争)により、新教徒(ユグノー)とカソリックは対立し、その戦乱のさなかフランスを脱出した新教徒(ユグノー)達が現在のスイスのジュネーブ周辺に集まり始めます。その後、西暦1598年フランス国王アンリ4世によって発せられたナントの勅命によって一端は平和を取り戻しますが、西暦1685年ルイ14世によるフォンテーヌブローの勅令によりナントの勅令は廃止され、新教徒(ユグノー)達は再びフランスを追われることとなってしまいます。
スイスの山間のジュネーブ周辺に逃げ延びた新教徒(ユグノー)達の多くは手工業者で、貴金属などの装飾品の製作技術に長けた人々が多かったのですが、宗教の戒律などから贅沢品である装飾品は禁止され、実用品である時計製作の技術向上に向けられたと推測されているようです。
夏は農作業、雪深い冬の間は屋根裏部屋(キャビネット)に籠り時計製作を行う、こうした人々はキャビノチェと呼ばれ、現在の時計職人のルーツと言われています。
歌舞伎も発生当時は、風紀を乱すとして禁じられ江戸幕府から規制を受けながらも現代までその文化風俗を伝承している点では、スイスの時計産業の発祥の状況に非常に共通する部分があると感じる次第です。由来発祥の時期もちょうど同じ時期というのもただの偶然ですが私個人的には非常に興味深く感じました。
現在の市川海老蔵は11代目とのことで、初代は1660年から1704年に活躍したというから、気が遠くなるほど長い歴史を途切れることなく受け継いでいる重責たるや、想像を絶するプレッシャーなのだろうと勝手に解釈してしまいます。
(この記事を書き始めたのは1月のことですが、ここまで書いたところで忙しくなってしまい筆が止まっていました。数日前ニュースで市川団十郎さんの悲報を聞いて驚きました。もう少し早く興味を持っていれば観る事が叶ったのにと後悔しております。ご冥福をお祈りいたします。)
勧進帳、パリ・オペラ座公演。成田屋
よくある質問ですが、現存する最古の時計メーカーは?と尋ねられると、その答えは西暦1735年創立のブランパンでありますが、実はブランパンは創業家の断絶やクォーツショック(日本製の水晶発振式の時計の開発成功)により致命的な打撃を受けるなどして1970年代に休眠を余儀なくされた過去があります。
一方、途切れることなく継続している最古のメーカーは皆様もご存じの通りヴァシュロン・コンスタンタンですね。1755年創立、なんと今年で258年目を迎えるというから驚いてしまいます。
という訳で今回はヴァシュロン・コンスタンタンの素晴らしい腕時計をご紹介いたします。
以前はPATEK PHILIPPEにも供給されていたヌーベル・レマニア社製クロノグラフムーヴメントベースのVC1141搭載モデルです。オーナーとなった方には是非ヴァシュロン300周年を一緒に迎えて頂きたいと思います。これからもロービートでゆっくりと時を刻んで行くことでしょう。
ちょっと無理やりでしたが、日本の歌舞伎とスイス時計、全く関係ない二つの文化が、悠久の時の流れの中で途切れることなく育まれ、それぞれが全く別の場所で同じような時代から続いている事実。シンクロニシティに近い感覚に感心する次第であります。
最後に今日の一曲 The Police “ Synchronicity II ”